社長の奥さん
特に面白い仕事でもないけど、家から近いのがよかった。
いちおう履歴書を持っていって面接を受けた。
「お子さんは、おいくつですか?」
「中学一年生と小学五年生です」
「夜の八時まで、お母さんが仕事に出てて大丈夫なんですか?」
「同居している母が見てくれますから」
「それなら、安心ですね」
夫の母はずっと仕事をしていた。
先月、定年退職した義母と毎日昼間一緒にいるのはお互いに気詰まりだ。
だから、今度は私が外に働きに出ることにしたのだった。
クリーニングの取次店でのパートは仕事も簡単なだけあって時給も安い。
それでも、家にいるよりはよっぽどいい。
私が勤めることになった駅の近くの商店街にあるこの店は、工場の直営店だった。
有名なフランチャイズのクリーニング店ではなくて、地元のクリーニング工場が市内に数店舗出しているうちのひとつだ。
お仕着せの濃いピンクのエプロンが気恥ずかしい。
結婚が早かった私は、会社に勤めた経験がほとんどなかった。
それでも、やってみれば難しいこともなく、三日間教えてもらうとひとりで店番をすることができるようになった。
私の勤務時間は午後三時から八時までの五時間。
開店の八時から三時までは、私より十才くらい年上のパートの人がきている。
四十才くらいなのかな。
キリッとした厳しそうな人で、交代時間に顔を合わせても必要なこと以外は話さない。
私が仕事を教わったのはこの人ではなくて、社長の奥さんだった。
面接も社長の奥さんに受けたので、まだ社長の顔を見たことがない。