刺すような視線
紅茶のカップを二つ運ばせると、今日子は、侑香の座っているソファの右隣の一人掛け用の椅子に腰を下ろした。
ショールを外し、むき出しになった首から肩にかけての素肌がとても滑らかに見える。
豊かな胸のあわいは、淫らに流れる一歩手前で隠されていた。
成熟した女の妖艶なブーケが漂っている。
「お母様のこと、本当に残念でしたわ。
大事な親友でした。
突然のことで、まだ信じられません」
今日子は声を落として、しかし、一語一語を丁寧に口にした。
侑香は喉の奥が急に干上がったような感じがして、テーブルに置かれたカップを口に運んだ。
アールグレイは思ったより熱くて、すぐに口から離す。
少し舌の先が火傷を負ったようだった。
「あの、母が……母がお世話になりました」
侑香は全身に強い風圧を受けている錯覚にとらわれた。
今日子は楚々として座っているだけなのに、その存在感に圧倒された。
ほんの一瞬、今日子の目が、少し微笑んだように見えた。
「この小娘」と、哀れんでいる風にも見える。
「私……見ました。
母が撮ったビデオです。
母と、あなたが、お、男の人と……」
そこまで言ったところで、とうとう侑香は相手から目をそらしてしまった。
自分の言葉が支離滅裂になってしまった、と思い返し、目を上げた瞬間、今日子は椅子から立ち上がり、背中を向けた。
「……営みしているところ、のね?」
今日子は、侑香が口にしなかった部分をさらりと言った。
動揺している気配はない。
それきり、沈黙が続いた。
どのように話を進めたらいいものか、侑香の頭は混乱した。
肝心のことを、どう言おう。
今日子は、ゆっくりと侑香の方に向き直り、刺すような視線を投げかけてきた。
侑香の心の揺れを見透かすように。
「……で、どうしたの?それをネタに、私をゆするつもり?」
優しげで、凄みのある口調。
怯えるどころか、逆に侑香に助け船を出す余裕のあるところを見せつけているようだ。