綺麗な声
わかりきったこと、東洞今日子という一人の女として、寛と対峙するしかない。
あのアトリエで抱かれ、身も心も屈服させられた女として、胸をかきむしりたくなるほどの愛欲の渇きを、ストレートにぶつけるしかない。
それは、聞き入られる願いなのか。
遠見夫人と寛の関係は、カネが介在していたからこそ成立していたのであり、あのときの自分と寛の交合も、ただそれに便乗したに過ぎないものではなかったか。
遠見夫人の出棺の時、思わず飛び出していった自分を、寛の目は冷ややかに見つめているだけではなかったか。
まさか、あのときの女と気づかなかったのか。
今日子は、固く握った拳を窓枠に擦りつけた。
そうであるならそれでもいい。
金を要求するなら、いくらでも出そう。
とにかく、寛に抱かれたい。
あの驚異的な弓根で女陰を荒々しく射抜いて欲しい。
あの力強さこそ、自分の求めていたもの、憧れていたものなのだ。
なんとしても手に入れたい。
今日子の精神は高揚し、さまざまなインスピレーションが頭蓋の内を反射しながら飛び交った。
そのとき、机上のインターホンが軽やかな電子音を発する。
点滅するボタンを押すと、秘書の声が
「遠見侑香様がお見えです」
と告げた。
「遠見?」
「はい、遠見先生のお嬢様です」
それで合点がいった。
あの夫婦には、一人娘がいたはずだ。
「わかりました。
お通しして下さい」
「こんにちは。
どうぞ」
鈴を振るような綺麗な声に、侑香はつられるように前に踏み出した。
侑香は、広い理事長室のほぼ中央にある応接セットのソファを勧められた。
いたって静かだ。