彼の匂い

彼と付き合い初めて半年くらい経った頃です。

 

二人とも地味な性格だったので、休みの日のデートといっても、特にどこかへ遊びに行くことはほとんどありませんでした。

 

昼過ぎに彼の家に行って、テレビを観たり話をしたりしていて、夕方になると彼のお母さんが仕事から帰ってきます。

 

とても、優しいお母さんで、ご飯を作ってくれるので、三人で夕飯を食べてからしばらくテレビを見ているんです。

 

そのうちに彼が車で私の家まで送ってくれる。

 

そんな、デートとも言えないようなデートを休みのたびにしていました。

 

それでも、話がつきることもなく、楽しかったんです。

 

ときどき、キスくらいはするようになってましたけど、まだ、それだけでした。

 

ある日、いつものように彼の家の茶の間でジュースかなんかを、飲みながらテレビを観ていたときのことです。

 

彼がキスしてきました。

 

そこまでは、いつもしていたので、なんとも思わなかったんですけど、初めて彼の手が服の上から私の胸を触ってきました。

 

ちょっとびっくりしたけど、そのままキスを続けてました。

 

唇が離れると彼が、「二階の俺の部屋に行こう」と言いました。

 

彼の部屋に入るのは初めてでした。

 

四畳半の和室に箪笥と机があって、布団が敷いたままになっていました。

 

「ちょっと横になれば…なにもしないから」

 

そんな陳腐なセリフを言ってしまう自分が嫌だというような顔を、彼がしたのがなんとなく可笑しかったんです。

 

こんな状況でなにもしないなんて、まさか私だって思ってませんから。

 

リードしなくちゃならない彼のほうが、何倍も緊張していたはずです。

 

私たちは、初めて服を脱いで抱き合いました。

 

彼の匂い、身体の重み、大きな手のひらの感触、熱い肌。

 

全部、初めて感じることばかりです。

 

こわばった彼の指が私の身体に触れて、私の気持ちは高められてゆきました。

 

こういうときって女のほうがどこか冷静なんでしょうかね。

 

とまどう彼を助けるように、彼の硬くなったものに手を伸ばしていました。

 

そして、自分の中へと導くように、入口へ押し当てました。

 

でも、このときはうまくいかなかったんです。

 

初めてのときって、うまくできないことがあるって聞いてたけど、本当にそうなってしまうとは思ってもいませんでした。

 

必死になって汗をかいている彼を見ていたら、なんとかしてあげなくちゃと思ってしまって、私は、してはいけなかったかもしれないことを、やってしまったんです。

 

萎えてしまった彼自身を、私の口で元気にしてあげようとしました。

 

初めてでこんなことをする女なんて、男性はいやだろうとは、気づきませんでした。

 

今、思うと笑っちゃうようなことだけど、あのときは必死でした。

 

そんなことまでしたのに、結局だめでした。