ミニスカートを履いた自分
「このへんの服はもう取りに来ないだろうな。
一年も前のがあるよ」
表のシャッターをすっかり下ろしてしまったので店内は密室になっている。
私が帰るときに出て行く裏口のドアは、営業中は鍵が掛けてある。
「これなんか、もう、お客さん取りに来ないよね」
社長がカウンターの上に置いたのは、ビニールがホコリをかぶったスカートだった。
「取りに来なかった服は最後は、どうするんですか?」
「三年くらいは工場に保管してるけど、そのあとはボランティアに出しちゃうとかね」
「そうなんですか」
「他にも、使い道があるけど」
「どんな使い道ですか?」
社長がにっこり微笑む。
ダンディな感じだと思ってたのに、笑うと意外とかわいい顔になるのね。
奥さんのほうが年下のダンナに惚れてるのかな、きっとそうだわ。
「奈々子さんは、いつもジーンズなの?」
「ええ、動きやすいから」
「こういうスカートは履いたことない?」
「ええっ?ありませんよ、こんなミニスカート」
店のカウンターに置かれた流行遅れのアニマル柄のミニスカートは、お尻が隠れないんじゃないかと思うほど短い。
いったいどんな人のものなんだろう。
クリーニングが仕上がっても取りに来ないのは、きっともう履かないからなんだろうな。
料金は前金制だから、お客さんが取りに来なくても店は損はしないけど。
「ちょっと、履いてみてくれないかな」
「えっ……そんなこと……」
このミニスカートを履いた自分がどんなふうに見えるのか、ちょっと知りたくなって着替えてしまった。
ジーンズを履いていたのでストッキングは身につけてないし、足元は白いソックスにスニーカーでアニマル柄のミニスカートには似合わない。
だけど、鏡の前に立った自分は、そんなに悪くないと思う。
少し腿が太すぎるかな。
きっと後ろからみたらお尻がピチピチなんだろうけど、ウエストはなんとか入ったわ。
私も結婚前にこんな服を着て遊んでみたかったなあ。
子供をふたりも産んだから体型もすっかりくずれてしまって、いまさらオシャレする気持ちなんて起きなかったけど。
こうやって、ミニスカートを履いている自分を鏡で見ると、まだまだいけるかななんて錯覚してしまう。
「奈々子さん、きれいだよ」
「きゃあ……びっくりした」