知らない男の匂い

二度目のデートでは予感がありました。

 

智也の家の近所を散歩しただけで、家に戻りました。

 

ふたりの会話は結婚の条件についてばかりでした。

 

子供の頃に知っていたといっても、おとなになってからはお互いに何も知らないのに、知っているように錯覚していたんです。

 

どんな人なのか、どういう考え方をする人なのか。

 

そんな基本的なことを知ろうという気持ちを忘れたまま、初めから結婚することに決めてしまっていました。

 

昼食のあと、ふたりで智也の家に戻ると、気まずくなって黙ってしまいました。

 

しばらくして智也が言いました。

 

「抱いていい?」

 

「うん」

 

今日はきっとこうなるって思っていたから、私はうなずいて彼に身をまかせました。

 

すりガラスの入った窓を閉めても、カーテンがないので部屋はとても明るくて、服を脱がされていくあいだがとても恥ずかしかったんです。

 

秋のよく晴れた日でした。

 

午後の日差しが部屋いっぱいに入ってきていて、布団の上に全裸で横たわると太陽の暖かさを身体に感じるくらいでした。

 

目を閉じて待っている私に、服を脱いだ彼の身体が重なりました。

 

抱きしめられると、知らない男の匂いが鼻孔を刺激します。

 

キスのあと、彼とした営みは、初めての人との行為とは全然違うものでした。

 

智也が私の足のほうへ移動します。

 

両足を左右に広げられると恥ずかしくて、両手で自分の顔を覆い隠しました。

 

指先で撫でるように繁みを分けられて、そこを観察するように見られているのがわかりました。

 

太陽の光を暖かく感じるくらい明るい部屋で、そんなところをじっくり見られていることには耐えられないと思いました。

 

見ないで、何も言わないで、することをしてくれればいいのに、と思っていた私に智也の言葉が聞こえました。

 

「きれいだ」

 

えっ、うそでしょう。

 

そんなところがきれいなわけない。

 

きっと自分が聞き間違えたんだと思いました。

 

だけど、智也が溜息まじりにもう一度言いました。

 

「すごく、きれいな色だよ、ここ」

 

私は聞かずにはいられませんでした。

 

「どんな色?」

 

「中のほうが、濃いピンク色してて、すごくきれいだ」

 

「いやっ……」

 

智也は楽しんでいるように、じっくりそこを指でいじりながら観察しているみたいでした。