荘重な部屋の中
その夜、洒落たマンションの一室、「煙突屋」の事務所では、社長の美詠子を相手に、興奮した加古井夫人が息せき切ってしゃべっていた。
「ねえ、聞いて。
もう、すごいの。
これまでのって、あれ、なんだったの、って感じ。
全然別、これが本当の営みなんだって、今、わかった。
躯の中がぐちゃぐちゃになって、5回、6回……ううん、それ以上、何度も気をやっちゃって、今もね、ピピッ、ピピッて、電気が走るの。
もう笑っちゃう、普通に歩いているつもりなのに、気がついたら脚を大きく開けていたりして。
あの人のアレが中に入っていてビクビクする錯覚がね……」
「あの、加古井様?」
機関銃のように連射される言葉のわずかな隙間に、美詠子は口を差し入れた。
しかし、加古井夫人は構わず続ける。
「ああ……ああ、ホントよかったわ。
もっと早く、こんないい人がいることを知っておけばよかった。
今ね、私、下着付けてないの。
ソファにバスタオル引いて、その上に座っているのよ。
だって、下着がすぐに濡れちゃって、何枚あっても足りないのよ。
こんなに潤うなんて、今まで生きてきて一度もなかったことよ。
でね……」
「ご満足いただいて大変嬉しく……」
「あの人ったら、いきなり入ってくるのよ。
頭の中までかき回されちゃって……」
「加古井様、あの、次回のご予約の件では?」
美詠子は、わざと冷たく事務的な声を出した。
やっと加古井夫人は我に返る。
「え?……あ、そうそう、予約、予約。
お願いするわ。」
キャンパスを取り巻く木立の間から、群雲に遮られた弱々しい日光が差している。
眼下には、学生たちが三々五々歩いているのが見えた。
今日子は大学本部の理事長室にいた。
広く、荘重な部屋の中で、一人きりだった。
「カンちゃん」と遠見夫人からそう呼ばれていた男の名が、つかめた。
(……徳能、寛)
その名を心の中で何度も呼ぶ。
寛は、自分が経営する大学の大学院生だ。
なんと幸運なのだろう。
今日子は自分に言い聞かせる。